2025/3/10

映画【PERFECT DAYS】で伝えたかったこと

パーフェクトデイズ。僕にとっての完璧な日々は何だろうとか色々考えさせられる映画でした。

平山のパーフェクトデイズとは

※以下ネタバレを含みます。

主人公は役所広司演じる平山という男。住んでいるのは東京都内の2階建ての古いアパート。建物は古いが、家の中は整理されてスッキリしている。2階の畳の部屋には、今では珍しいカセットテープが棚に綺麗に並べられている。カセットテーププレイヤーもなんかいい。本棚には、文庫本だけが綺麗に並べられている。新書はなさそうだ。

朝は、近所のおばさんが箒で掃く音で目覚める。目覚まし時計は不要だ。畳の上に敷いた敷布団、掛け布団を軽やかに畳む。歯を磨き、鼻の下の髭をハサミで丁寧に切り揃える。部屋で育てている植物に霧吹きで丁寧に水をやる。

外出時に必要なものは玄関の棚に綺麗に並べられている。それらを順番に手に取り、玄関を出ると空を見上げる。平山はどこか幸せそうな顔をする。家の前の自動販売機で甘い缶コーヒーを買う。コーヒーを手に車に乗りこむ。聴きたいカセットテープをかけながら仕事場に向かう。仕事は都内の公衆トイレの掃除だ。仕事で手を抜くことはない。朝が早いので仕事が終わるのは夕方前。家で仕事着から着替えて、自転車で銭湯に向かう。開店すると同時に到着する。体を洗って汗を流す。湯船に入り、体を癒す。銭湯から出たあとは、休憩スペースで体を涼ませる。その後、地下街にある行きつけの居酒屋に行く。何も言わなくても少しのアテと1杯のお酒が出される。店の外に目をやると、まだ仕事で行き交う人も多い。陽が完全に沈む前に家に帰る。畳の部屋で本を読む。眠くなってきたら、寝転びながら読む。ウトウトしてきたら、本を閉じ電気を消して眠りにつく。

休みの日は、コインランドリーで洗濯をする。カメラのフィルムを古びた個人経営と思われるカメラ屋さんで現像してもらう。1フィルムにつき4000円くらいだろうか、現像するのにお金はかかるが、好きだからそのお金は惜しまない。古本屋で100円で売られている文庫本を漁る。面白そうなのを選び、1冊購入する。夕方、オープンした頃から通っているママのいるスナックでお酒と食事を楽しむ。

平山の生活を見て、孤独だが自由なこういう生活も悪くなさそうだなと思った人も少なくないはずだ。Xでの感想をピックアップ。

https://twitter.com/9sakamoto/status/1893436458918109238

シンプルな生活、こんな生活素敵だよねという感想が多くあった。

自己欺瞞に陥る

僕もこんな生活もいいなと漠然と思ったことは否定できない。

結婚して子供が生まれると、養育という責任が発生する。子供が生まれると子供中心の生活になる。平山のように自由に、自分のペースで生活するわけにはいかない。今の家族と過ごす時間は何ものにも変え難く、幸せな時間だ。ただ、「隣の芝は青い」で平山のような孤独でも自由な生活はいいなと思ってしまう。

映画の登場人物について、「寂しさ」を本気で感じることはできない。何となく元気そうで、映画の中で1人でも幸せそうな顔をしていたら、逆にこんな生活もありなのかなと感じる。でも、本当にそうなのだろうか。

先日読んだ「いつも幸せな人は、2時間の使い方の天才」では、幸せになるためには「達成感」「リラックス」「ふれあい」が必要と記載があった。

達成感は「何かをやり遂げた時に味わえる感情」、ふれあいは「他人とコミュニケーションをとっている時に味わえる感情」、リラックスは「お風呂には入っている時などに味わえる感情」。

コミュニケーションをとる時間を作っている人の方が幸福度が高いというアンケート結果がある。また、既婚男性と未婚男性だと既婚男性の方が幸福度が高いというアンケート結果もあった。心地いいコミュニケーションの濃さは人によって多少違いがあるにせよ、平山ほど「ふれあい」がないと幸福度は実際下がるのではないだろうか。

『幸せに関するアンケート調査』幸せとコミュニケーションには相関関係あり⁉現在の日本人の幸福度は10点満点で「6.51点」 コミュニケーションの時間を作っている人の幸福度は「7.46点」 | カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社のプレスリリース

この映画で「足るを知る」ことができるのであれば、今ある何気ない日常「家族とふれあう時間」も大切にしたいと思いなおした。

なぜ、平山の仕事が「トイレ掃除」なのか

結局、このパーフェクトデイズという映画は何を伝えたかったのか。

「足るを知る平山の生き方。」「質素な生活でも、日々の小さな変化を楽しむ平山の姿」を通して、前でも少し触れたが視聴者に「足るを知ることの大切さ」「日常の素晴らしさみたいなもの」を伝えようとしていると感じた。

ただ、仕事はトイレ掃除でなくてもいいかなと思っていた。映画内でも平山が仕事のトイレ掃除をする場面が多く描かれているが、とても綺麗なトイレで汚物等の描写はない。東京のそれらのトイレを実際に見たことがないが、現実は綺麗なトイレばかりではないのではないか。

そんなことを思っていたら、この「パーフェクトデイズ」の制作のきっかけについて、記載されているwebページがあった。それらを読んでいると、この映画は「THE TOKYO TOILET」というプロジェクトの一環で制作されていることがわかった。映画内で平山が掃除をするのは、このプロジェクトにで整備されたトイレだ。 なるほど、このプロジェクトをアピールするために制作された映画ということであれば、平山の仕事がトイレ掃除であることも理解できた。

このプロジェクトのきっかけについて、柳井康治氏は以下のように述べている。

たとえば、オフィスやデパートのトイレは、綺麗なことが多く、自宅のトイレもそんなに毎日掃除しなくても綺麗な状態は保たれている。それがひとたび公共トイレとなると、人の意識として「汚してもいいと思うようになるのは、なぜだろう?境界線があるとしたら、どこなのだろう?」という疑問です。

【全文掲載】「ヴェンダースにメガホンを預けた2人」柳井康治氏、高崎卓馬氏 – 文化通信.com

そして、相談を重ねていたある日、高崎さんは、アートや芸術には、人の意識をがらっと変える力があるという話をしてくださり、アートの力を借りたプロジェクト(のちの『PERFECT DAYS』)を立ち上げ、その軸としてTTTがある、という方向性が見えてきました。

【全文掲載】「ヴェンダースにメガホンを預けた2人」柳井康治氏、高崎卓馬氏 – 文化通信.com

口数は少ないが、人間味のある平山が掃除をしている。僕自身も日常生活で、トイレ掃除をお仕事にしている人をみかけることはあるが、正直トイレ掃除の人を意識してみたことがない。それが、公衆トイレは「汚してもいい」と思ってしまうことの要因だと思う。この映画をみたら、平山という人物を通して、トイレ掃除をしている人への意識もかわり、公衆トイレに対する意識を変わる可能性がある

この映画をきっかけに「THE TOKYO TOILET」というプロジェクトやその目的をを知ってもらうと当然良いが、国外の人を含めこの映画を観た人は、「東京にはこんなおしゃれな公衆トイレがあるんだ。」と思ったはず。その時点で、公衆トイレに対する人の意識は変わっているのではないだろうか。

About Me

sai

sai

1991年大阪生まれ。広島在住。2021年に第1子が誕生。
サラリーマンをしながら育児に奮闘中。週末の出来事や、子育てに関する情報など、日々の暮らし豊かにするための情報を発信します。
好きな食べ物はチキン。