2022/6/5
「 嫌われる勇気」を子育て目線で読んでみた
嫌われる勇気とは
日本でベストセラーとなっている「嫌われる勇気」。
読んではないけれど、書店で表紙は見たことがあるという人もいるのではないでしょうか。
嫌われたくないと思う人って僕も含めてなんですけど、日本人に多いんですかね。
この本では「自由とは、他者から嫌われることである」と書かれているんです。
要するに、ある人から嫌われているということは、自分は自分の方針に則って自由に生きているからそう言う面ではいい事だと言っている。10人の他人がいて、全員にいい顔ってできないんですよね。また、それしようとするのってめっちゃ疲れるし、そんな自分ってありのままの自分じゃ絶対ないですよね。(当然、悪いことをして嫌われるのが良いというわけではないですが)
そんな感じで、この本では最終的には「幸せとは何なのか」についてロジカル的にアドラーの心理学を用いて説明してくれています。
アドラーの心理学とは
この嫌われる勇気、アドラーの心理学に基づいて書かれています。
心理学界の三大巨匠って聞いたことありますか?
フロイト、ユング、そしてアドラー。この3人のことを心理学界の三大巨匠というそうです。3人共に19世紀後半から20世紀前半にかけて同じ時代に生きた心理学者。フロイトとアドラーは一時期、共同研究を実施していたそう。ちなみに、ユングはフロイトの弟子でした。
「嫌われる勇気」で書かれているアドラーの心理学の特徴をいくつか紹介します。
全ては過去のせい? -目的論-
例えば、引きこもりの人がいるとします。その人は外に出るのが恐ろしい。話を聞くと、過去の両親からの虐待やイジメを受けていた。外に出れないのはそのトラウマによるものと本人や周りの人も考えている。これってよくありそうな話ですよね。「私(彼)は、過去に虐待、イジメを受けていたから、今引きこもっている。」要するに、過去の出来事によって現在や未来の自分が決定していると。でも、ここで考えて欲しいのは、虐待やイジメを受けた人が全員引きこもっているかと言えば、当然そうではない。過去の出来事によって現在や未来の自分が決定しているというのは、つじつまが合わないんですね。そこで、アドラー心理学では、過去の「原因」にスポットを当てるのではなく、今の「目的」にスポットを当てます。どういうことかというと、「過去に辛い体験があったから、引きこもっている。」のではなく、「引きこもりたいから、過去にあった辛い経験を使っている。」と考えます。これを目的論といいます。この考え方にもとづいて、アドラーの心理学では、トラウマを否定しています。トラウマって過去の出来事が原因と考えるためです。
他人の評価は気にしない! -承認欲求の否定-
冒頭で少し書いていますが、自分がありのままの自分でいるためには、みんなにいい顔をし続けるわけにはいきません。みんなにいい顔をするという行為は、みんなから認められたいという承認欲求から発生しています。アドラー心理学では、人がありのままの自分でいるために、他者から承認を求めることを否定します。
これは誰のため? -課題の分離-
世の中には、勉強や仕事などの様々な課題があります。アドラー心理学では、課題の結果によってもたらされる結末を引き受ける人によって、自分の課題か他者の課題か明確に分離します。
例えば、子供が勉強をしないというのは、誰の課題でしょうか。考え方としては、子供が勉強をしないという選択をすることによって、その本人が大学に入れないなどの結末を引き受けます。なので、この勉強という課題はその子供の課題となるわけです。
ポジティブ、ネガティブは生まれつき? -ライフスタイル-
これは、概念的なものですが、人生における考え方や行動の傾向のことをいいます。世界観や人生観のようなもの。人それぞれ考え方やそれに伴う行動って傾向がありますよね。悲観的な傾向がある人、楽観的な傾向がある人。悲観的な性格というとこの先変えづらいというイメージがありますが、悲観的な世界観を持っているというと変えれそうですよね。アドラー心理学では、このライフスタイルは生まれ持ったものではなく、10歳前後までに「自分で選んだ」と考えます。また、自分で選んでいるのでその後でも再び選び直すことができるとしています
子育てで活用できること
この嫌われる勇気、「子供が勉強してくれない。」とか「子供には自立した大人になって欲しい」など子育てで悩まれている方にとっても、学ぶ部分が多い本です。
いくつか子育てで活用できそうな部分を紹介したいと思います。
子供の復讐
少し怖いタイトルですが、子供が、いたずらなどで大人をからかうことってあると思います。「大人が本気で怒る前にいたずらを止める場合」と「本気で怒るまでやめない場合」があって、この2つのパターン同じようでかなり違うんです。アドラーの心理学の目的論で考えると、本気で怒る前にいたずらを止める場合は、子供は大人をからかうことで自分に注目を集めることを目的としています。なので、本気で怒られたら止めるんですね。ただ、怒ってもいたずらを止めない場合、これは子供は大人と闘うことを目的としています。勝つことによって自らの力を証明したいと思っている。いわば「権力争い」を大人にふっかけてきているということになります。この「嫌われる勇気」の中では、この「権力争い」には絶対に乗ってはいけないとしています。いたずらを子供が止めない場合、大人は力ずくでいたずらを止めさせ、何度でも大人の権力を誇示することは可能でしょう。しかし、負けた側の子供は、次に別の形で「復讐」の段階に入ります。その復讐は、不登校やリストカットなどかもしれません。子供はこれらを、親が困ったり悩むことを見越した上でやっているわけです。こうなってしまうと、解決がかなり難しくなってきます。そうならないためにも前の「権力争い」の段階で、解決する必要があります。子供が自らの力を証明する目的は何なのか考え、承認をほしがっているのであれば、親が子をもっと認めてあげるなどしてあげる必要があるでしょう。
僕も子供の頃の記憶を遡ってみると、これに近いことをしていて、小学生か中学生か正確な時期は覚えていないのですが、自分のテストの成績が悪いことで悩んでいる親に対して、優越感というか何かそういうのを感じていた時期がありました。「復讐」にあたるかはわかりませんが、小学3年生から中学受験の塾に行き、当時好きでやっていたソフトボールのチームを勉強のために半ば辞めさせられたことも影響していたのかもと思いました。
自分が親の立場になり、この「権力争い」の瞬間に気づけるかどうかは正直わかりません。ただ、このことを知っておくことで気づける可能性が出てきたということは、間違いありません。
褒めるっていいこと?
褒めることは、子供の自己肯定感をあげるために良いことだと思っていました。「いいことをしたら、いっぱい褒めてあげましょう。」みたいなことって、当たり前で子供の成長にプラスになると僕も思っていました。
アドラーの心理学では、子供を含めて他者とのコミュニケーションにおいて褒めることを否定しています。びっくりしますよね。僕自身、子供だけじゃなくて、仕事などでも部下を褒めることは、人間関係を良くするために良いことだと思っていました。
なぜ、アドラーの心理学では褒めることを否定しているのかというと、褒めるという行為には、上の立場の人が下の立場の人に評価を下すという側面があるから。嫌われる勇気では褒めるという行為には、感謝や尊敬の気持ちが含まれていないとしています。さらには、褒めることは、上下関係を明確にし、他者を操作するという目的があるとまで言っています。ちなみに、アドラー心理学ではこの縦の関係を否定し、横の関係を提唱しています。
つまり、褒めまくるということは、子供の自己肯定感を上げるどころか、「あなたは私(親)より、能力が劣っている。」ということを言葉では言ってはいないにしても、暗に伝え続けていることになります。一方、感謝の「ありがとう」の言葉には、評価の意味は含まれていません。人は感謝の言葉をもらった時に、自分が他者に貢献できたと感じます。これは自己肯定感に繋がります。なので、子供がお手伝いをしてくれた時には、「えらいね」ではなく、「ありがとう」がいいでしょう。
アドラーの心理学では、褒めることを否定していますが、カーネギー著書の「人を動かす」では、普通に「褒める」行為を推奨しています。「褒める」ことに対して、色んな見方があると認識して、理解するのがいいですね。
何気なく、この本を選んで読んでみて、子育てに使える部分が多いなと感じました。少しネットで調べてみたら、嫌われる勇気に書かれているアドラーの心理学と子育てを関連づけた書籍とかブログは既に結構ありますね。
嫌われる勇気の著者の岸見一郎先生は、アドラー心理学に基づいた子育てに関する本も出されているので、そちらを読むとより理解できるかもしれません。
ちょうどこの記事を書いている2022年6月1日にYahooニュースで岸見一郎先生のアドラー心理学と子育てに関するインタビュー記事がありました。育児に関わる方の参考になると思います。
yahooニュース
アドラー心理学は子育てにも活かせる? 『嫌われる勇気』著者・岸見一郎さんに聞く「対等な親子関係の大切さ」