2022/11/17
エリザベスⅠ世に学ぶリーダーの資質
仕事や学校など、日常生活でリーダーシップが必要な場面は多くあります。また、子育てをしている親として、自分の子供はリーダーシップがある子に育ってほしいと考えられている方も多いのではないでしょうか。歴史上の人物からリーダーに必要な要素を学ぶことができると私は考えています。今回は、16世紀から17世紀にかけてイングランドの女王として治世をおこなったエリザベスⅠ世に焦点を当てて、リーダーに必要なことをまとめてみました。
エリザベスⅠ世は何をしたか
そもそも、エリザベスⅠ世は何をした人物なのか。
エリザベスⅠ世は、イングランドをヨーロッパの一大強国にしたことで知られます。
エリザベスⅠ世は1558年から1603年までイングランドの女王に即位し、イングランドの統治を行った人物です。エリザベスⅠ世が女王に即位したのは、1558年。この時のイングランドは宗教や外交など多くの問題を抱えていました。エリザベスⅠ世が女王に即位した時の年齢は25歳でしたが、若きエリザベスは、これらの問題に周りの有能なメンバーの力を借りながら、政治を行い、大英帝国の基礎を作り上げていきます。
当時は女性という性別がディスアドバンテージになることもあったと考えられます。そういった中で、どうしてイングランドを一大強国にすることができたのか。それは、一つにエリザベスⅠ世にリーダーの資質があったからだと僕は考えます。
リーダーの資質の具体例でよく挙げられるものをいくつか紹介します。
- 方向性を示すこと
- メンバーの能力を引き出すこと
- 環境を整えること
これらの中でも、エリザベスⅠ世は「方向性を示すこと」に長けていたのではないかと思います。一般的に、リーダーは組織の目的を明確に示すことが必要です。示すだけではダメで、正しい意思表示をする必要があり、そのためには正しい知識が必要になります。
どうして、エリザベスⅠ世は「方向性を示すこと」に長けていたのか解説します。
人文学によって育まれた知性
エリザベスは、16歳の時すでに、英語に加えてフランス語、イタリア語、ラテン語、ギリシア語を話すことができ、優れた語学力を持っていました。また、語学だけではなく、幅広い教育を受けていました。そのことが分かる、エリザベスが16歳の時の家庭教師が友人に送った手紙の一部を紹介します。
王女さまとともにキケロ(ローマの政治家・著述家、紀元前一世紀)の全作品と、歴史家リウィス(紀元前一世紀)の作品のほとんどを読破しました。王女さまのラテン語の知識はこの二人の作家から学んだものです。午前中にはギリシア語の新約聖書を読み、午後は、イソクラテス(アテネの雄弁家、紀元前四世紀)やギリシアの劇作家ソフォクレス(紀元前五世紀)の作品の中から適当なものを選び、読みます。正しい言葉遣いで話し、古代賢人の教訓に精通しておくことは、ご身分がら、ご自分を弁護する立場に置かれたときに役に立つと考えるからです。宗教教育には、王女さま自ら聖書という泉と、カルタゴ司教キプリアヌス(二〇〇頃ー二五八年)の作品と、ドイツの宗教学者メランヒトン(一四九七ー一五六〇)の『コモン・プレイセズ』(Loci Com-mnes)といった書物を選びました。王女さまの優雅で正確なラテン語はこの二人の偉大な作家から得たたまものといえましょう。
図解 エリザベス一世 石井美樹子 著
リウィスは、ローマ建国からローマ帝国の初代皇帝が誕生するまでが書かれた『ローマ建国史』を紀元前十七年頃に書いた人物です。イソクラテス(紀元前436年から紀元前338年)は、当時のギリシアで最も影響力のある修辞学者で、今でいう弁論や説得の技術に関する本を書いたり、授業しこの学問に大きな影響を与えた人物です。ソフォクレスは紀元前5世紀に活躍した三大悲劇詩人の一人。著名な作品の一つに『オイディプス王』があります。
この手紙だけでも歴史や伝える力、文化的なことまで幅広く学んでいたことがわかります。
エリザベスが政治に関することだけではなく、演劇も学んでいたこともあってかエリザベスの時代には文学も盛んで、シェイクスピアが誕生したのもエリザベスの時代と被る部分があります。
エリザベスⅠ世は演説が上手なことでも知られており、1601年に国内の議員を相手に行った「黄金の演説」はその場の全議員を感激させたことでも有名です。演説の冒頭一部を紹介します。
「神が私を高い地位につけられたけれども、あなた方の愛情をえて統治してきたということこそ、私の王冠の栄光(=グローリー)であると考えている」
世界史リブレット人51 エリザベス女王 女王を支えた側近たち 青木道彦著より
エリザベスが女王になったのは、25歳ですからかなり若い。エリザベスより年上の側近達と対等に議論を行い国の方向性を示すためにも、幼い間に学んでいた幅広い学問が、多いに役に立っていたのではないでしょうか。
僕たちも年上のメンバーを巻き込んで物事に取り組むことは多くあります。知識や知性が全てではないと思いますが、必要最低限の見識は対等に話すためには必要です。いつその知識が必要になるかわからないので、準備は早ければ早いほどいい。これは、現代に生きるわたしたちにも言えることなのではないでしょうか。
優れた人事とバランス感覚
宗教改革以前は枢密院の大部分を聖職者が占めていましたが、エリザベスは大学教育を受けた俗人で統治を経験した人物を多く登用しました。実力と経験を重視したんですね。
エリザベスの前に女王をしていたメアリー時代の枢密院のメンバーも半分以上は残し、19人中9人を新たに新任しました。
全てのメンバーを自分の選り好みで選ぶのではなく、あえて前の女王の時代のメンバーも入れることで、様々な意見を取り入れることを重視したようです。
仕事でも、何かのプロジェクトをリーダーとして進めていく中で、メンバーがリーダーにとって耳障りがいいことのみをいうメンバーだと、会議は円滑に進みますが、いいものはできません。反対意見を含め様々な意見を言ってくれるメンバーがいるからこそいいものができますよね。
また、エリザベスⅠ世が女王になった時というのは、カトリックとプロテスタントのキリストの二つの宗派が国内で分かれていた時代。エリザベス1世は、プロテスタントでした。しかしエリザベスⅠ世は、イングランド国内でどちらか一つを優遇する政策ではなく、ゆるやかな政策をとったんですね。この中道政策をとったことにより、ローマ教皇にエリザベス自身が破門された時も、熱狂的なカトリックを除いてイギリスの国民の大部分は、ローマ教皇の破門を歓迎せずエリザベス側について、国が二分されるようなことは起きませんでした。
この国を二分しかねない問題を解決できたのは、エリザベスの人材配置で前にも述べたように様々な意見を持つメンバーをそろえていた結果ともいえます。加えて、国が二分しかねない問題に対して、政策がどちらか一方に偏りすぎないようにするための俯瞰的に見る力、バランス感覚もありました。
また、様々な意見を聞いたあとで、最終意思決定をするのはエリザベスⅠ世なので、その適切な判断を下すための知性を含めた力がエリザベスには備わっていました。
エリザベスⅠ世を描いた映画
エリザベス
エリザベス||洋画専門チャンネル ザ・シネマ
エリザベスが女王になるまでの経緯やエリザベス自身の恋愛模様も描かれています。
エリザベス:ゴールデン・エイジ
エリザベス:ゴールデン・エイジ||洋画専門チャンネル ザ・シネマ
前の「エリザベス」の続編。メアリー・スチュアートとの話や、スペインとのアルマダの海戦の模様が描かれています。
参考文献
エリザベスⅠ世 大英帝国の幕あけ 青木道彦著
世界史リブレット人51 エリザベス女王 女王を支えた側近たち 青木道彦著
図説 エリザベス一世 石井美樹子著