2026/3/17
人間はそんなに偉くない|『日本人拉致』を読んで思ったこと
日本人拉致被害者が帰国した2002年。当時、僕は小学5年生だった。テレビで帰国時の様子を見ていた記憶がある。それから20年以上経過した。
拉致問題はニュースでたまに目にしたが、正直、この問題について深く考えたことはなかった。
そんな中、先月、何気なく書店で手に取った蓮池薫さんの「日本人拉致」。
手に取った理由は正直、興味本位。長い間、拉致問題についてニュースで何かと情報がこまめに入ってきていたこともあってだと思う。最近だと、横田滋さんが亡くなられたニュースがあった。これまで特別、拉致問題について意識したことはなかったが、実際の拉致被害者が書いた本ということで、興味があった。
購入してからは、3日ほどであっという間に読んでしまった。
本書で解説されている、北朝鮮側の拉致に対する考え方や、北朝鮮が拉致をすることで何を得ようとしていたなんてことは、考えたことがなかった。
また、本書では拉致被害者の北朝鮮での生活やマインドコントロールが描かれている。
日本で暮らす僕には非現実で、映画を見ているようだった。
拉致被害者ということで、どこか遠い国での出来事のような印象がこれまであったが、本書のところどころの場面で、日本で実際にあったことということに気付かされる。
北朝鮮で建設労働者として働いたあとの場面の描写は、リアルだ。
そんな日は、家に帰ってきてそそくさと入浴と食事を済ませると、トウモロコシ焼酎に酔った勢いで翌朝まで死んだように眠りこけるだけだった。
「日本人拉致」著者:蓮池薫
北朝鮮で先生として工作員に日本語を教えていた際、生徒のテストの出来が悪かった時に感情的になる場面は、蓮池薫さんも感情のある一人の人間としてそこにいたことを思い知らされる。。
完全にキレてしまった私は、答案用紙を「ホン」の顔に叩きつけ、もう「二度と来るな」と」招待所から追い出してしまった。
「日本人拉致」著者:蓮池薫
金日成の国葬時に、北朝鮮への忠誠心が試される場面。拉致をされ、異国での状況を考えると胸が痛む。
だが、困ったことにいくら声を出しても、涙腺は刺激されなかった。ときどき目がしらを押さえたり、こっそり指で頬に唾をつけたりしてごまかすしかなかった。長きにわたって受けてきた思想教育の「結果」はこの程度のものだったのだ。
「日本人拉致」著者:蓮池薫
本書を読んで実際にあったこととして、問題は認識できた。
未だ帰国を果たしていない横田めぐみさんが連れ去られたのは13歳。子供を持つ親になった今、めぐみさんのお母さんの苦しみは想像に絶えない。
拉致は明確な犯罪だ。ただ、犯人が北朝鮮という国であることがネックになる。
個人が北朝鮮という国を相手に解決することは不可能だ。
そのため、この拉致問題は国と国の駆け引きの中に組み込まれていく。
実は「日本人拉致」を読んで2ヶ月ほど、拉致問題について自分なりの結論やアウトプットができない日々が続いた。
結局、僕はこの問題を、どこまで自分ごととして考えられているかということがわからなかった。
被害者の家族にとっては人生の問題だ。自分が被害者になれば、人生最大の問題になるだろう。
でも、国にとっては外交問題だ。自分を含めた被害者以外の日本人は、国全体の利益を損なってまで、解決することを心の底から望めるだろうか。
そんなモヤモヤした気持ちを抱えながら過ごした。
時間が経てば、また拉致問題についてはたまにニュースで目にする程度の人になってしまうだろう。
そんなことを考えていた時、ふと別のニュースを思い出して心が軽くなった。
それは原発事故のニュースだった。
事故を起こした福島第一原子力発電所では、今も廃炉作業が続いている。
原子炉の内部には燃料デブリと呼ばれる溶けた核燃料の塊が残っている。
取り出すには何十年もかかると言われている。
人類は原子力という便利な巨大なエネルギーを扱えるようになった。
けれど、それを完全に管理できるほど賢くはない。将来的に大きな問題になるかもしれないのに、そのことを直視できていない。
拉致問題も、どこか似ている気がする。
同情の気持ちを寄せることはできても、自分ごととして考えることはできない。最後は自分が可愛い。
私自身も、その1人だ。だからこそ思う。
人間はパーフェクトではない。思いやりを大切にしましょうなんて綺麗ごとなのかもしれない。
遠くの出来事を、ずっと真剣に考え続けられるほど強くない。
それでも、完全に忘れてしまうのは違う気がする。
関心は問題を解決しない。しかし、関心が消えれば問題は確実に後退する。
自分の中で問題を保留して、時々立ち止まって思い出すこと。
この問題がまだ終わっていないと知ること。
それくらいしかできないのかもしれない。
人間はそんなに素晴らしくない。
だからこそ、完全に忘れないことだけは大事なのだと思う。









