2024/12/19
キューバ危機から学ぶ「意思決定の罠」
1962年にソ連がキューバにミサイルを配備しようとして起こったキューバ危機。
今から60年程前と比較的最近の出来事ではあるが、当時、僕はまだ生まれてはいないのでリアルタイムで体験はしていない。アメリカとソ連(今のロシア)が核戦争に突入する一歩手前だったといわれている。
だが、最終的にはアメリカとソ連は戦争にはならず、最小限ともいえる被害で危機を脱している。どのようにして、2つの国が危機から脱したのか。そもそもどうしてここまでの危機に陥ってしまったのか。これらのことを知ることは、組織で生きる現代の我々ビジネスマンにとっても学びが多くあると感じている。
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周りの意見に振り回されるな!
たとえば、キューバ危機時、アメリカ政府の主要メンバーとして対応したロバート・ケネディの回顧録では以下の記載がされている。
NATO諸国は米国の立場を支持し、毅然としているように忠告している。しかし、とケネディ大統領は言った。これら諸国は、自国にどんなハネ返りがあるか、十分にはわかっていないのだ。
ロバート・ケネディ著「13日間-キューバ危機回顧録」
アメリカとソ連の緊張が最高潮に達した状況でもなお、NATO諸国は毅然としているように忠告していたそうだ。そのままアメリカが忠告を受け入れてしまうと、アメリカとソ連は戦争に突入し、最終的にはNATOの国までに戦争の影響が及ぶことが予想されるにも関わらずである。
僕たちの日常でも同様のことはよく起こる。自分達が所属する組織が課題に直面した時、その課題に対して直接関係ない人物からアドバイスを聞く際は注意が必要だ。相談された側の人間が、自分の立場を完全に捨て去り、完全に相談者の立場に立ってアドバイスすることは容易ではない。自分にとって有利な方へ促すアドバイスをすることも考えられる。
国同士のやりとりでも、適切なアドバイスを得ることは難しい。僕たちも他人のアドバイスを全て鵜呑みにすることは危険で、自分にとって何が最善か見極める力はいつの時代も大切なようだ。
部下の意見を本音で聞ける?
キューバ危機の間、大統領はすべての重要な政府機関から情報を受けただけではなく、大統領は大変な努力をして、役職の上下、地位の相違のゆえにいろいろな人々や見解から自らが遠ざけられることのないように務めた。
ロバート・ケネディ著「13日間-キューバ危機回顧録」
キューバ危機で度々深刻な決断を迫られたケネディ大統領。「大変な努力をして~」の部分が大切と感じていて、会社の組織でも役職の上の人が下の人の意見を本音で聞くことはなかなか難しい。部下も上司から意見を求められた際、本音で思ったことを言うのは容易ではない。部下はどうしても上司の顔色をうかがってしまって、上司に嫌われたくないという力が働くからだ。アメリカ大統領なら、なおさらだろう。
上司が部下に意見を求める際は、上司は本音で意見を言ってほしいことを伝えるのはもちろん、自分にとって耳障りが良くない意見でも受け入れることを示すことが必要だ。意見を求める相手の「心理的安全性」を確保することが求められる。
マシューサイド著の「多様性の科学」内ではキューバ危機を例に多様性の重要性が記載されている。本書の著者は、似通った人の集団で議論するより、様々なバックグラウンドをもった人の集団で議論した方がよい結果を生むとし、キューバ危機の際に、アメリカが「キューバ侵攻」ではなく、「海上封鎖」の選択肢を取ることができたのは、多様な人材を集めて議論したからだとしている。
キューバ危機を描いた映画
【13デイズ】アメリカとソ連の国同士の緊迫した状況を描く
ケビンコスナー主演のアメリカ映画。キューバ危機について興味を持ったキッカケとなった映画。映画の内容は一部史実と異なる部分もあるようだが、キューバ危機の大筋を理解するのにおススメ。
アメリカとソ連の緊迫したやりとりが描かれており、とても引き込まれる映画だった。
タイトルの「13デイズ」はソ連がキューバにミサイル基地を建設していることをアメリカが知った10月15日から、ソ連がキューバからミサイルを撤収することに合意した28日までのこと。この13日間にスポットをあてて描かれている。アメリカ映画ということもあり、これら13日間のアメリカの苦悩がアメリカ目線で語られているため、ソ連側の主張はほとんど出てこない。キューバ危機がなぜ起こったのか等、13日間以外で起こった経緯を知りたい人は、別に本を読んだり調べることをお勧めする。
【クーリエ:最高機密の運び屋】核戦争を回避するために動いたスパイ達の物語
キューバ危機が発生する前を中心にイギリスのセールスマンが、ソ連から情報を持ち出してくるというスパイ映画。実話に基づいた話だ。キューバ危機は、アメリカがキューバにミサイル基地を発見したことから始まるが、そもそもキューバにミサイル基地があるという情報をアメリカは掴んでいた。その情報はどこからきたか。それは、映画中で中心人物として描かれているスパイ達の活躍によるものである。スパイ映画ということで、手に汗にぎる緊張感あるストーリーだった。キューバ危機時、アメリカとソ連の政府間のやりとりの裏には、映画内で描かれているような個人のスパイ活動が展開されていたのだろう。「13デイズ」は主にホワイトハウス内でソ連とのやり取りで緊迫感がでていたが、この「クーリエ」は実際に主人公がソ連に行ってKBGに監視されながら任務を行うというまた違った緊張感がある映画だった。
キューバ危機の関連書籍
ロバート・ケネディの「13日間-キューバ危機回顧録」
キューバ危機時のアメリカ大統領がジョン・F・ケネディだが、その弟ロバート・ケネディが書いた回顧録。キューバ危機の当時、ロバート・ケネディは司法長官として大統領の側近としてキューバ危機に対応していた。
キューバ危機は結果として、核戦争という最悪のシナリオを回避することができたわけだが、アメリカ側の決断に伴う苦悩や意思決定のプロセスが描かれている。アメリカが最悪の状況を回避するために必要だった意思決定のプロセスについては、示唆深い記述も多く、学びが多いと感じた。また、アメリカとソ連のトップ同士の緊迫したやり取りが記述されており、読み物として面白い。
ただ、アメリカ側の視点で書かれている感は否めないので、キューバ危機の全体像を学ぶのには不向き。
「キューバ危機-ミラー・イメージングの罠」
ドン・マントン、デイヴィッド・Aウェルチ著の「キューバ危機-ミラー・イメージングの罠」。本書の冒頭、映画13デイズを見て、僕が感じていたことをそのまま書いてくれていたので驚いた。13デイズについて、記述されている一部内容を抜粋する。
なぜフルシチョフはキューバにこっそりミサイルを持ち込んだのか。なぜフィデル・カストロはその話に乗ったのか。なぜ2人ともそのようなことをしても何とかなると思ったのか。そして、モスクワやハバナで何が起きたことで、両超大国は核戦争の瀬戸際から用心深く引き返せるようになったのか。これらの点については何も語っていない。
ドン・マントン、デイヴィッド・Aウェルチ著「キューバ危機-ミラー・イメージングの罠」
キューバ危機の全体像をわかりやすく簡潔に解説してくれている。上で紹介した映画「13デイズ」やロバート・ケネディの書籍は、アメリカ目線で描かれている感が否めない。それらでは理解できないキューバ危機が発生した経緯を知ることができる本だ。